脳出血について
脳溢血(のういっけつ)という言葉を使う方は最近少なくなりましたが、年配の方の中には脳卒中というより馴染みが深いかもしれません。脳溢血と脳卒中は同義ではなく本来脳内に出血した場合に使われます。しかし、CTが登場する以前には脳梗塞と脳内出血の区別がつきにくかったため脳溢血は脳卒中と同じ意味に使われていたようです。
脳内出血の原因として、多いものは高血圧により脳内の0.1mm程度の細い血管が脆くなることです。出血自体は数分でおさまることが多いのですが、脳内の運動や知覚神経の通り道の近くに起こることが多いため半身の障害を生じます。治療としてまず思い浮かぶのは手術ですが、出血により神経が切れてしまっていると手術をしても麻痺などの障害は改善しません。しかし、出血が多い場合には生命にかかわることがあるため、救命のために手術は必要であり、意識障害を早期に改善させるためにも手術は有効な場合があります。
予防としては、血圧のコントロールが最も大事ですが、少量の飲酒(一日0.8合程度)は出血の危険を抑制することが知られています。(もちろん無理して飲むことは禁物です)
また、脳血管障害の大敵と思われているコレステロールもあまりに少なすぎても出血する危険が高くなると言われています。
血圧以外の原因として、近年アミロイド血管炎が知られるようになりました。これは、アミロイドと呼ばれるたんぱく質の一種が血管に沈着し、血管が脆くなります。年齢が進むにしたがってこの病気が起きる可能性が高くなりますが、現在はまだ予防法治療法は確立していません。しかし、発生頻度は近年高まる傾向にありますので、研究が進められています。
高血圧性脳出血
脳出血の原因の多くは高血圧です。 ここでは高血圧性脳出血について説明します。
出血の起こり方
高血圧は長い年月をかけて、脳内の小動脈に動脈硬化を進め、さらに動脈を脆弱化します。その結果、動脈は高い血圧に耐えられなくなり破綻します。過労や興奮、運動などによる急激な血圧上昇が出血の引き金になります。
※脆弱:組織などがもろくよわいこと
※破綻:やぶれほころびること
症状
症状は出血の部位と程度によって異なります。脳出血は出血部位から、
- 被殻出血
- 視床出血
- 尾状核出血
- 皮質下出血
- 小脳出血
- 脳幹出血
などに分けられ、それぞれに特徴があります。 いずれの部位であれ、大出血であると患者は急速に意識障害に陥り、死の転帰を取ります。出血の少ない場合は、部位に応じて、言語障害、片麻痺、知覚障害、複視、視野障害、運動失調などが発現します。
診断
CT(下図)、MRIで行います。
治療
薬物治療と手術治療があります。
- 薬物治療:薬で血圧や脳圧を下げる治療
- 手術治療:脳内血腫を除去する治療
手術治療ではさらに定位脳手術(頭蓋骨に小さな穴をあけ、細い管を挿入して血腫を吸引除去する)と開頭手術に分かれます。一般的には、小出血に対しては薬物治療、生命にかかわる大出血に対しては手術治療を行います。定位脳手術か開頭手術かの選択は専門的な判断で行います。病状安定後は、機能障害に対するリハビリテーションを行います。
予防治療
高血圧のコントロールが重要です。塩分を控え、肥満を防ぎ、寝不足・過労を避けるとともに、降圧剤の服用が必要です。高血圧は症状の有無で治療するのではなく、血圧を正常化して、心臓や脳の合併症を防ぐことが目的です。
アミロイド・アンギオパシーによる脳出血
特徴
脳の動脈にアミロイドという異常蛋白が沈着するために起こる脳出血です。60歳以上の高齢者で起こりやすいと言われています。血圧や糖尿病との相関はなく、比較的短期間に再発する大脳表面下(皮質・皮質下)の脳出血です。男女差はありません。出血部位は前頭葉、頭頂葉、後頭葉の順に多くみられます。
出血によって痴呆が発現する場合があります。出血部位によっては、半身麻痺・言語障害・視野障害などが発現します。
症状
既に認知症のある方が出血する場合や、出血によって認知症が出現する場合があります。出血部位によって、半身麻痺や言語障害、視野障害などが発現します。 生命にかかわる大出血につながる場合もあります。
診断
高血圧を持たない高齢者で、前頭葉や頭頂葉、後頭葉の表面下に広がる脳出血を見たなら本症を疑います。特に、出血が多発する場合や、繰り返す場合にはその可能性は高くなります。出血の部位や程度の診断はCTやMRIで行います(下図)。確定診断は現時点では、脳動脈の病理診断によらなければならず、手術例や剖検例に限られます。
治療
高齢者に多いため、内科的治療を中心に行います。手術により血腫を除去しても、すぐに再出血することが少なくありません。
予後
脳出血の再発は16%以上あるといわれ、高齢者に多いため、予後は一般に不良です。
このページは以下に掲載された記事より抜粋して再掲したものです。
平成16年1月30日発行ふれあい第13号脳神経外科講座より
平成16年5月10日発行ふれあい第14号脳神経外科講座より
平成18年8月10日発行ふれあい第23号脳神経外科講座より