はじめに
当院では、パーキンソン病に対する脳深部刺激療法、難治性疼痛に対する脊髄刺激療法などの機能神経外科といわれる手術を行っております。これらは電極や刺激装置を体内に埋め込み、電気刺激をすることで症状を軽減させます。一方、視床凝固術は脳の視床といわれる部位の一部を熱凝固し、機能をさせないようにすることで症状の軽減を図ります。この治療法は、全国でも行っている施設が少なく認知度は低いと思われますが、適応となる疾患においては手術により劇的な効果をもたらします。ここでは視床凝固術についてご説明いたします。
視床とは
視床とは脳の深部にある神経核の集合体で、主に感覚情報の中継を司っています。様々な核があり、視床凝固術でターゲットとなる部位としては主に腹吻側(Vo)核、視床腹中間(Vim)核の2つとなります。Vo核は運動の調節、Vim核はふるえ(振戦)に関与するといわれております。これらは、下記疾患において原因となる神経回路の一部を形成します。
局所性ジストニア
ジストニアとは、脳の機能異常により筋肉が自分の意図とは違うようにこわばり収縮してしまう疾患です。ジストニアには様々なタイプのものがあり、視床凝固術が可能なジストニアは主に局所性ジストニアです。例えば書痙、職業性ジストニア(音楽など)、スポーツ時のジストニアなどが含まれます。特にその動作を仕事としている患者さんにとっては、その障害は生活に大変な支障をきたし、発症によりその後の人生に大きく影響します。書痙は、字を書くときにだけ手がうまく動かせなくなり、書字が障害されてしまいます。また、職業性ジストニアは、仕事として同じ動作を繰り返していくうちに特定の動作をする際に手や足に力が入り細やかな動きができなくなってしまい仕事に支障が出ます。また、スポーツに関するジストニアでは、ある特定の動きをする際に動きが悪くなり、スポーツの成績が落ちたり、スポーツそのものができなくなってしまいます。これらはすべて同じ動作を繰り返すことにより、頭の中に異常な回路が形成され、内服治療や理学療法などが行われますが、治療に抵抗性で満足する治療効果が得られないことが多いようです。最も効果が高い治療法として視床(Vo核)凝固術があります。
書痙(しょけい)
字を書くときにだけ手がうまく動かせなくなり、書字が障害される。
職業性ジストニア
仕事として同じ動作を繰り返していくうちに、特定の動作をする際に手や足に力が入り細やかな動きができなくなってしまい仕事に支障が出る。
スポーツに関するジストニア
ある特定の動きをする際に動きが悪くなり、スポーツの成績が落ちたり、スポーツそのものができなくなる。イップスと呼ばれることもある。
本態性振戦
本態性振戦は、ふるえのみが症状の病気です。40歳以上の20人に1人、また65歳以上の5人に1人が本態性振戦にかかっているともいわれており、非常に多くの患者さんがいらっしゃいます。原因は不明ですが、脳内の神経回路の異常によって生じます。まずは内服治療を開始しますが、内服治療でも改善が得られない場合、視床(Vim核)凝固術を行います。
視床凝固術の概要
- フレーム(定位脳手術装置)の取り付け
- 病棟で特殊な器具(フレーム)を患者さんの頭に装着します。このフレーム装着により、ターゲット(刺激を行う場所)にリードを挿入することができるようになります。この際、フレームを固定する頭皮の部分にはあらかじめ局所麻酔を行います。
- ターゲットの位置の確認
- 次に、磁気共鳴画像(MRI)の撮像ならびにコンピュータ断層撮影(CT)を行い、ターゲットの位置をコンピュータ上で正確に計算します。
- 凝固装置挿入
- 手術室へ移動します。通常、手術は部分剃毛、局所麻酔で行います。頭蓋骨に一円硬貨より小さな穴をあけます。通常片側1ヶ所にあけます。その後、凝固針をターゲットに挿入します。
- テスト刺激
- 手術中に手を動かしてもらったり、症状のでる特定の動作を行っていただきます。凝固前に、針を体外式の刺激装置につないでテスト刺激を行います。電極が正しい位置にあるかどうか、刺激による効果及び副作用を確認するために行います。「しびれ」や「手足のこわばり」、「しゃべりにくさ」などを感じた場合には、感じたことを答えてください。これらの結果から、凝固する部位を決定します。
- 凝固
- 凝固の際には、手を上げたり、数を数えたりしながら副作用の有無を確認します。凝固は位置を少しずつずらし、何ヶ所かに分けて行います。その都度、副作用や症状の変化を確認しながら手術を行います。
手術効果
改善が見られる場合、凝固直後より症状の改善が見られます。ジストニアなどでは、半年間再発が見られない場合、完治とみなします。局所ジストニアではうまくいけば完治が見込め、発症前のように動作が滑らかになります。凝固術のメリットとして、機械を埋め込む必要がないため、再診をする必要がなく、治癒が見込めることです。本態性振戦の場合、症状が両側性のことが多いですが、利き手側の症状だけでも改善させることで、日常生活動作に大きな改善をもたらします。
最後に
このような治療法があることを知らずにあきらめてしまっている患者さんも多いと思います。手術の適応や方法、効果などについて詳しくお知りになりたい方は、金沢脳神経外科病院、機能外科外来を受診ください。かかりつけの先生より紹介状を持参いただくと手術が可能かどうかの判断がしやすくなりますが、紹介状なしの受診もお受けしますので、遠慮なくご相談下さい。
※このページはMedtronic社作成のパンフレット「脳深部刺激療法について」の画像を一部使用しております。